中国地図

ルイス・ホルヘ・デ・バルブーダ−アブラハム・オルテリウス
「世界の劇場」
1584年   アントワープ
手彩色銅版画
ポルトガル人のイエズス会宣教師バルブーダが制作し、オルテリウスの地図帳「世界の劇場」に収録されたこの中国図は、西洋の地図帳に収められた最初の中国図として記念すべき作品です。

当時の中国にはヨーロッパから商人なども訪れるようになっていましたが、宣教師は商人が入ることが許されない場所に入れたり、極秘に類する情報にアクセス出来る場合もあり、西洋諸国の貴重な情報源でありました。 中国は古くから地理学が進んでいて、西洋諸国は競ってその情報を手に入れようとしました。 バルブーダも実はスペインのスパイだったと言われています。

という訳で、この地図は当時の最新の中国図です。 面白いことに北が右、西が上になるように描かれていますが、当時はまだ北を上にして表すというのは定着していなかったので、このような風変わりな地図になりました。 日本は、本州が海峡により分断されており、西半分しか描かれていないものの、最初にほぼ正確に日本を描いたテイセラの日本図(1595年)より早く、九州、四国、本州が正しい位置に置かれています。 帆を張った車(風力車)、蒙古のテント式住居、インドの象、新しいタイプへの移行期と言える天使が飾られたカルトゥーシュ(タイトル部分)など、装飾も賑やかで大変見栄えのある地図です。

日本部分の拡大図です。 右に90度傾いて描かれています。 九州と本州が狭い海峡で分けられています。 九州の本州寄りにFacata(博多)、四国の下にAua(阿波)の地名が見えます。 瀬戸内海には小さい島々があり、本州は瀬戸内海ぐらいある海峡(おそらく琵琶湖の拡大解釈)で分断されています。 分断された本州の上の部分にMeaco(京都)、下の部分にSacai(堺)があります。 

中国西域部の拡大図です。 この大きな湖は、多くの町を呑み込み沢山の人が死んだ1557年におきた大洪水によって出来た、と書いてあります。 上部に可愛いインドゾウが描かれています。 注目すべきは、おそらく西洋の文献で初めて中国の風力車が描かれていることです。 当時ヨーロッパでも風力車の研究が進められていましたが、中国の方が一歩先んじていました。 

中央の赤い線の部分が「万里の長城」です。 「400マイルの長さ」と記述されていますが、実際はそんな短くありません。