内惑星軌道図

ヨハン・ガブリエル・ドッペルマイヤー
−ヨハン・バプティスト・ホーマン

「百図地図帳」
1712年頃   ニュルンベルク
手彩色銅版画
この版画は、天文学地図帳「新編星図」(1742年)を著したことで有名なニュルンベルクの天文学者・数学者ドッペルマイヤーが最も初期に、18世紀ドイツを代表する地図製作者集団ホーマン一族の長ヨハン・バプティスト・ホーマン(1664年−1724年)の所で制作した内惑星(水星、金星)軌道図です。

1710年に観測された太陽を中心に軌道している水星、金星、地球を解説しており、右下には1710年11月6日に観測された水星の日面通過の軌道が、そして左下には1761年6月6日に予測される金星の日面通過の軌道が描かれています! ホーマンの地図に特徴的な美しい寓意図は太陽を中心に水星、金星、地球が回っている姿が描かれていて、地球を模した六頭立ての馬車の車輪は南極地図になっています。

ニュルンベルクで生まれたドッペルマイヤー(1677年−1750年)は近くのアルトドルフ大学で法律と数学の学位を得てからドイツ、オランダ、イギリスと旅行をし、その間に天文学を学びました。 その後ニュルンベルクに戻り1704年にギムナジウムの数学教師になり、独自に天文学の研究をしました。 ホーマンも1702年にニュルンベルクに工房を設立しており、若き二人は息が合ったのか、当初から協力して主に天文学関係の図版の制作をしています。 ホーマンは1715年には神聖ローマ帝国皇帝カール六世のお抱え地図製作者になったほどの実力者だったので、恵まれた研究発表の場を得たと言えるかもしれません。 ドッペルマイヤーは大学教授の誘いを受けたものの全て断り、終生ギムナジウムの教師の職に留まりましたが、その業績によりベルリン科学アカデミー、ロンドン王立協会をはじめとする数々のアカデミーの会員に選ばれています。

この版画は1712年のホーマンの「百図地図帳」に最初に収録され、その後のホーマンの数々の地図帳にも再録されています。 1742年のドッペルマイヤー天文学の集大成「新編星図」にももちろん収録されています。

太陽の周りを水星、金星、地球が回っていることを表した素晴らしい寓意挿絵、装飾的な古地図黄金時代の最後の輝きです! 地球の馬車の車輪が南極地図になっているのが分かりますか? 当然反対側の車輪は北極地図でしょうから、地球が自転して車輪を動かし、太陽の周りを回っていることを示している訳です。 

太陽を中心とした水星、金星、地球の軌道図部分。 写真でも分かりますが、地図帳に収められた地図によく見受けられる、折り目の割れが少しあります。