パリ鳥瞰図

セバスチャン・ムンスター
「世界誌」
1550年   バーゼル
木版画
ムンスター(1489年−1552年)が1544年から出版し始めた「世界誌」は、16世紀中期に最もヨーロッパの人々に読まれた地理学書で、最新の地図や都市図に加えて、百科事典的とも言える世界についての記載が満載で、当時のヨーロッパの人々の世界観に与えた影響は計り知れません。 実際、改訂を加えながら何度も版を重ね、各国語版も作られて行きました。

1550年に「世界誌」は大幅に増補され図版が増やされ、鳥瞰図による都市の地図や景観図が新たに加えられました。 このパリの鳥瞰図は、最初の本格的なパリの地図と言われ1530年頃に完成したPremier Plan(最初の地図)を基に作られました。 Premier Planは5メートル近くあった巨大な地図だったようですが現存しません。 16世紀に作られたパリの地図のほとんどはPremier Planを基に作られていますが、中でもムンスターのこの地図は、少なくとも一般のコレクターが手に入れることの出来る最古のパリの都市図です。

この城壁で囲まれたパリ鳥瞰図では東が上方に配置され、重要な建物がABCのキーで左上のフレームに記されています。 右上にはフランス王家の紋章が描かれています。 この版画の実際の制作者Hans Rudolf Manuel Deutschのイニシャルが右下隅に記されています。。

版画は半切サイズの無地のマットに入れてあります。 木版画は線の太さが所々で変わるのが特徴で、細い線の装飾をマットに入れると雰囲気がとげとげしくなってしまうため、無地のマットをお勧めしています。 

版画の全景。 写真のコントラストをかなり強めにしているので、茶色いシミが目立ちますが、実際は見た目ほど濃いシミではありません。 この時代の版画としては綺麗な方です。 

右上に描かれたフランス王家の紋章。 この三つのフルール・ド・リスの紋章は1376年にシャルル5世によって採用され、1589年まで使われていました。 

シテ島をヘソとしたパリの中心部。 橋の上に住居が見えます。 フィレンツェのヴェッキオ橋などには今も残っていますが、昔は橋の上にも人が住んでいました。 

右下に版画の制作者Hans Rudolf Manuel DeutschのイニシャルHRMDが刻まれています。