コンパスマップ ヤン・ヤンソン 「海図帳」 1650年 アムステルダム 手彩色銅版画 |
ヤンソン(1588年−1664年)は元々オランダで出版業と書籍販売業を営む一家に生まれましたが、1612年に大地図制作者ヨドクス・ホンディウスの娘と結婚したことで地図制作の道に入ることになります。 当初は書店の拡大に尽力していましたが、後に義弟のヘンリクス・ホンディウスに協力してホンディウスが始めた地図帳制作に深く関わることになり、その地図帳にはヤンソンの名前も加えられました。 ヤンソンの監督のもと地図帳は拡大を続け、最終的には当時最高と言われたブラウ一族の地図帳に比肩する大地図帳になりました。 この地図は地図帳の5巻目として作られた「海図帳」に1枚目の図版として収められた風と方角を解説する図版です。 大航海時代はコンパスの改良によってもたらされたとも言えますが、それより昔の船乗りは風を読んで航海しており、その風には様々な言語で様々な名前が付けられていました。 例えば古代ギリシャやローマではギリシャ神話の風の神たち(アネモイ)の名前で風が表されていました。 図の円の周りに描かれた、口から風を吹いているのはそれら風神たちです。 この図版はそれらの風の名前を近代的なコンパスローズ(羅針図)を中心に各国語の東西南北の名称と共に配したものです。 これにより古い名前の風がどの方向から吹く風か誰にでも分かる仕掛けになっており、古い航海術も近代の航海に活かせることになる訳で、海図帳の最初の図版として最適なものです。 さらにこの図版は航海が風を読む古い航海から、羅針盤を用いた近代的な航海に移ったことを示しているとも言え、大航海時代の海図帳に相応しいものでもあります。 と解説する以前に何より一枚の版画としての装飾的美しさに圧倒されます。 |
東の風神部分の拡大図。 風神は当時のヨーロッパから見てそれぞれの方向に住んでいた人種の特徴のある姿に描かれています。 東の風神には太陽も一緒に描かれています。 |