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普通、百年以上前に印刷された版画のことを指します。 よく質問を受けるのですが、当時の作品を今刷っているものではなく、実際に当時刷られた版画です。
最近では、アンティーク・プリントを複製したリプロダクションが飾られているのをよく見かけるようになりましたが、価値あるオリジナルのアンティーク・プリントが持つ味わいには程遠いものがあります。 リプロダクションを飾ることで、むしろ全体のインテリアの雰囲気を安っぽいものにしてしまうことも多々あります。 海外の一流誌や権威あるインテリアの本に登場する作品は、本物のオリジナル・プリントであるのが普通です。
また近頃、オリジナル・プリントのような紙を使って作られた贋作を目にするようになりましたので、注意してください。 |
現代の版画には、作者の自筆サインや、何分のいくつといった通し番号が書かれていますが、通常アンティーク・プリントにはありません。 このようなサインは、印刷する数を限定することで版画一枚あたりの付加価値を高めるため、19世紀終わり頃から主にファイン・アートの分野で始まったものです。
代わりにアンティーク・プリントには、絵の下、左右に作者の名前がよく彫られています。 一般に左下が原画を描いた絵師、右下が原版を彫った彫版師の名前です。 |
アンティーク・プリントは、最終的に本にまとめられる図版として制作されたものがほとんどです。 しかし、現代人が知っている本とは様相がかなり異なっています。
カタログを御覧になると、出版年が数年、時には数十年に渡っているものがあるのを発見されると思います。 当時、出版はたいへんお金と時間が掛かる事業でした。 版画一枚作るのに数週間、あるいは数ヶ月掛かることもあったのです。 いきおい販売価格も高額になり、簡単に売買できるものではありませんでした。 そこで出版者は最初に購読者を募り、数枚ずつの版画を分売して資金を回収しながら出版をしました。 購読者は、最後に長年かけて集めた版画を自分で(そして時には自分の趣味や都合で内容を変更して)製本したのです。 したがって同じ本でも、大きさやデザインそして中身までも異なることになりました。 アンティーク・プリントで版画の外寸を表記するのが無意味なのは、このような理由からです。 |
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アンティーク・プリントは単なる本の図版と考えるより、一種の版画作品集だと考えた方がよいでしょう。 時々、本にされずに、分売された時のルーズリーフに入った状態の版画を見つけることがありますが、出版当時の雰囲気を生々しく感じることができて興味深いものがあります。
ルイ・クロード・デソールス・ド・フレシネ
「ユラニー号とフィジシェンヌ号世界周航記」
1824年−44年 パリ
動物篇第八回分売のルーズリーフ。
この回は六枚の版画が綴じられていました。 |
幾つかの有名作品では判っていることもありますが、多くの場合は不明です。 しかし、例えば銅版画の場合、原版が磨耗するので数百部以上制作することは物理的に無理です。 さらに、数百年前に作られた版画なので、全て残っているわけではありません。 16,17世紀の版画は10−20%、19世紀のもので50%ぐらいが残存率でしょう。 そのうちの多くのものが、すでに博物館や図書館に所蔵され出てきませんから、市場に出回るアンティーク・プリントの数はさらに低いものとなります。
人気のあった銅版画の古地図の場合などで、百年ぐらいの間に何度か出版され、全部で三千枚近く刷られたという記録のあるものがあります。 もちろん銅版画ではそんなに刷れないのですが、磨耗した原版を彫り直したり、いよいよ駄目になると原版ごと彫り変えたりして出版されました。 このような場合、当然初版とは違いが出ます。 これらのヴァリエーションをエディションと呼びます。 ただし初版の方が後のものより優れているとか、値段が高いとかは一概に言えません。 古地図などでは、修復の際に新たな発見が書き加えられたり、間違いが直されたりします。 後の版の方が、学問的に重要なこともあるのです。 愛好家にとっては、どれもそれなりに興味深い作品なのです。 |
アンティーク・プリントの紙は、18世紀以前のものは一枚一枚手漉きで作られた和紙のような紙ですから、現在私たちが使っている紙より丈夫で、千年の寿命があると言われています。
しかし古い版画なので、どんなにコンディションが良いものでも、酸化や湿気によるシミなどの自然なエイジングがあります。 また長い間には、ある程度の破れや欠けなどのダメージを受ける場合も少なくありません。 イギリスでは、版画の印刷されている部分ギリギリまでトリミングしてしまうことが多々あり、端にダメージを受けているものをよく見かけます。
欧米では、著しく損なわれていなければ、多少のダメージは気にしない人がほとんどです。 もちろん「アリア」では、コンディションの良いものを集めるように努力していますが、中には仕方のないこともあります。 コンディションの良し悪しは、当然値段に反映されています。 しかし気にならない程度のエイジングや傷みは、アンティーク・プリントならではの勲章とも言えます。 それらがアンティークの魅力のひとつである、歴史を感じさせる味わいの源なのです。 リプロダクション(複製画)では有り得ないわけですから。
アンティーク・プリントの紙は、今の一般の紙より日焼けもしにくいと思います。 とは言っても、日焼けをしない紙などありませんから、光の強い場所に置くことはお勧めできません。 普通に室内に置いておくぶんには、ご心配いりません。
「アリア」で使用しているマットボードはPH値の高い無酸紙で、使用しているテープも大英博物館でも使われている無酸テープです。 作品を傷めないよう最善の方法を考えてマッティングしてありますので、当店の作ったマットに入っているうちは安心していただいて結構です。 |
アンティーク・プリントは数が限られた商品なので、同じサイズの作品だから同じ値段というわけにはいきません。 同じシリーズの作品でも、描かれている題材によって値段は大きく違います。
例えばボタニカルアートの場合、赤い花、大きい花など派手なもの、あるいはバラなどの人気のある花は、値段が高くなります。 地味な花、珍奇な花などは、安くなります。 額装した時にバランスが悪いものも、安くなります。 またシリーズによっても、かなり価格は変動します。 例えば、あるシリーズは千円から一万円、あるシリーズは二万円から二十万円といった価格帯があり、その範囲で題材により値付けされているので、常に価格がトップクラスのバラであっても、一万円であったり二十万円であったりします。
しかし価格が安いからといって、作品そのものの価値が低いわけではありません。 作られた作品は、どれも制作者が同じ情熱を込めて作ったものであり、たまたま今の消費者の一般的好みで、題材による価格差が生じているのです。 もし素朴な花や、ちょっと変わっているけれど珍しい花がお好きなら、お買い得品が目白押しです。 シリーズ毎の価格帯の差にしても、値段の高いシリーズの方がレヴェルの高い作品とは一概に言えません。 アンティーク商品なので、希少性もかなり影響するのです。 立派な作品でも沢山数が残っているものは安くなりますし、逆もまた有り得ます。
値段の違いは、初めてのお客様には分かり難いかもしれません。 しかしこの価格差により、ご予算の点で多くの選択肢がアンティーク・プリントにはあるとも言えます。 たとえ安価な品物でも本物のオリジナルですから、何処に出しても恥ずかしいものではありません。 リプロダクションは、所詮オリジナルの複製にすぎません。
「アリア」では、千円程度の版画から数百万円の版画まで、インテリア・アートとしてお気軽にお求め頂ける作品から、マニアックなコレクターの方をも唸らせる作品まで、数多く在庫しています。 身近で個性的なアートとして、ぜひご検討ください。
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